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福岡高等裁判所 昭和32年(ラ)118号 決定

抗告人 高倉磯五郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、本件抗告は要旨は、債権者(原告)山崎善賢、債務者(被告)抗告人間の家屋取り除き並びに収去費用支払命令申請事件につき、原裁判所のなした決定は不服である。

抗告人は昭和二八年(ワ)第四号(福岡地方裁判所吉井支部の事件番号)家屋明渡等事件につきなされた控訴審の判決を不服とし、昭和三一年一一月二日上告していたが、債権者側から仲裁がはいり同年一二月六日当事者間に抗告人は上告を取り下げ、係争家屋を昭和三一年一二月二四日までに明け渡し、また、抗告人の増設した店舗の売場は、仲裁人佐々木俊吾の世話で債権者に売却して存置させるもよし、あるいは第三者に売却の上除去するもよく、いずれの場合も、当事者双方とも異議をいわず、債権者は抗告人に対する一切の権利を放棄し、家賃その他一切の損害賠償を請求しないことの裁判外の和解が成立したので、この和解に基いて抗告人は昭和三二年一月一七日上告を取り下げ、和解条項の通り家屋も明け渡しているので、いまさら前記昭和二八年(ワ)第四号事件の判決を債務名義とし家屋収去の援権決定及び収去費用の前払を命ずる決定を求める債権者の申請は不当であるのにかかわらず、原審が該申請を認容したのは失当であるというのである。

二、しかし記録によれば原決定は建物の収去等を命じた所論昭和二八年(ワ)第四号事件の判決を債務名義とし、これが強制執行のため民訴第七三三条第一項民法第四一四条第二項に基いてなされた建物収去及び費用の前払を命ずる決定であるところ、この決定は第一審の受訴裁判所が執行裁判所として、確定判決の執行方法としてなすもの、すなわち強制執行手続という連鎖の一をなすものに外ならないから、執行手続上における形式上のかしを攻撃して該決定に対する不服の事由とするならば格別、所論のように、既に債務名義の効力が和解によつて消滅したから該債務名義に基く執行は許すべきでないとする実体上の異議の主張は、民訴第五四五条の請求に関する異議の訴によるべきであつて、本件のごとく該決定に対し民訴第五五八条による抗告をもつて争いうべきものではない。

よつて抗告を理由なしと認め、民訴第四一四条第三八四条第九五条第八九条を適用し主文の通り決定する。

(裁判長判事 鹿島重夫 判事 二階信一 判事 秦亘)

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